ユートピア研究

『見つけ出すもの』ではなく『作り出すもの』、それがユートピア

21. パラグアイのメノニータ社会   ~平和主義の自給自足社会~

 


 南米・パラグアイに、ドイツやスイスから450年の流浪の旅を経て、約80年前に“安住の地”パラグアイにたどり着いた、「メノニータ」と呼ばれる宗教一派の自給自足社会が存在します。彼等はメノー派キリスト教徒(プロテスタントの一派)たちで、信仰の自由を求め、そして自分達の独自の生き方を実践できる地を求めて世界を転々としてきて、そしてパラグアイに安住の地を見つけたのでした。


 彼らの特徴は農牧業に従事し、教会と農協を中心としたコミュニティーの回りに広い土地を持つ家族単位の農場を築き、なんでも手作りと自給自足で無駄のない生活を築き、徹底した反消費社会、循環型持続社会を作っています。平和主義者で戦争への参加は拒否し、家庭を大事にし家族全員で農場を維持するため、どこも子供が多く大家族です。

 彼等はまずなによりも自分達の信仰を最優先します。彼等はルターのプロテスタント教会から妥協できない独自の信仰のために分派し、スイスやドイツを出て世界をさまようことになりました。ルター派カトリック教と同様に幼児洗礼を行いますが、彼等はしっかりとした判断ができる大人でなくては洗礼を受けるべきではないと信じます。また聖書の教えに反するとして一切の偶像礼拝を嫌い、人を殺す戦争を拒否し、兵役には絶対に出頭しません。そのためにも子供たちを普通の公立教育に預けることはしません。自分達でなっとくのいく教育をしようとするのです。


 彼等は世の中の流行やハイテクなどは興味がありません。自分達の平和で安定した自給自足の生活を維持しようとします。その中で、自分で家も作り、馬車も作り、衣服も作り、畑で野菜や穀物を作り、家畜を飼い肉も保存用加工をします。自分でできることは、何でも自力でやります。そして自分でできないことにだけ「文明の利器」を使ったり、コロニーの仲間の力を借りたりするのです。徹底的に「無駄遣いをしない」暮らしぶりは、そのまま、与えられた自然環境を大切にする生き方に繋がっているようです。


 日曜日は家族全員で馬車にのり教会に行く風景が微笑ましく見えます。しかし月曜日には広大な農場にむかうトラクターが町を行き交います。

 メノニタは、現在世界中に110万人ほどの人口をもつといわれています。しかし、複数の宗派に分かれており、伝統的生活スタイルと仕事を守る保守派や、近代的な機械や生活スタイルを受け入れていく進歩派があります。アメリカ国内では保守派のアミッシュなどが手芸のパッチ販売などで知られています。 進歩派グループは地域社会に溶け込んでいるために目立ちませんが、保守派はどこでも人の目を引く統一したスタイルを維持しています。男は、繋ぎのズボンに山高帽をかぶり、女は手作りの長いスカートに紐でとめた麦わら帽子を被っています。

 彼等は世界中を探し、広大な土地が手に入るところを見つけると、そこの政府と特別な移住協定を結びそしてそれに基づいた集団移住を行い、自分たちの伝統と主義に基づいて統一された移住地造りを行います。その移住協定の中には、完全な宗教の自由、独自教育の自由、言語の自由(ドイツ語を使う)治安管理権の委託(国の警察を入れないで自分達で管理する)農協による遺産管理権、兵役免除などが含まれていますが、それらの特権の条件として、彼等は農業生産に携わり、国の食料自給と農産物輸出を推し進めることに貢献すること、とされています。

 メノニータのコロニーは、数家族の小さなものから、最大は数万規模までがあります。 これは世界中に散らばる開拓集団社会とも言えるものですが、パラグアイのチャコというところには、3万5千人規模の大変充実したコロニーがあります。 彼等のコミュニティーでは日常会話から、教育、報道(新聞、ラジオ)まで全部ドイツ語で自分達の宗教哲学に基づいて行われ、警察も軍隊も立ち入ることのない、完全な自冶権が与えられています。それでもパラグアイ国内で、生産性の高い農協組織を運営し、食料の国内需要と輸出に大きな貢献をすることによって、パラグアイの政府と市民の両方から尊敬される存在となっています。