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ユートピア研究

『見つけ出すもの』ではなく『作り出すもの』、それがユートピア

39. 企業のユートピア化 ~生活共同体にまで発展する日本の企業組織~

 

 日本の企業の中には、単に雇い主と労働者との関係ではなく、一つのファミリーとして成長し、どんなに巨大化しようとも役員から従業員まで結束と信頼関係が強い伝統的企業がある。創立者の人徳が大きく、リーダーシップのみならず、従業員に対して親のような関係があり、従業員も創立者に対して宗教的信仰に近い崇拝心をもったりする。そしてそれらの企業では、基本的に終身雇用制であるのみならず、病院からホテル、レストラン、スポーツクラブなど、なんでもそろえた体制で生まれたときから死ぬときまで世話になる人間も多く、一種の宗教国家的な生活共同体という雰囲気がある。

 アメリカを代表とする西洋経済圏では企業は、資本家のビジネスツールであるのに対して、日本型経営システムの特徴として、共同体的な生産管理と人事政策がよくあげられる。実際生産体制だけでの共同体ではなく、生活共同体ともなる性質の企業が多くあり、これらはユートピア的企業と位置づけられるが、戦後、人々は企業の中に新たな共同体を模索してきた。そのような特殊な状況の中で機能集団である「企業」が「共同体」としての役割を兼ねるようになっていった。それゆえに日本企業には他の資本主義国には見られないような共同体的特徴が濃厚になっている。一例として、もっとも理想的に成長してトヨタのケースを紹介してみよう。

 トヨタの場合


 トヨタ自動車は、2004年3月期の連結決算で1兆1620億円の利益を計上し、製造業としては実質世界一の水準に達した日本の産業界を代表する巨大企業である。

 しかし、6万5000人を抱えるこの会社の誇るところは利益の規模だけではない。他社にはマネのできない高度な組織体制からなる結束と従業員たちがもつ信頼と忠誠であろう。
 トヨタは、創業一族の豊田家を中心に、田舎企業の良質な部分を残した宗教国家的な会社を作り上げたが、トヨタは車だけでなく、電気製品でもゴルフクラブでもなんでも即座に作れる力と技術をもっており、ものづくりの底力は驚嘆すべきものがある。しかし、企業自体が生活共同体のような雰囲気があり、濃密な人間関係が苦手なサラリーマンには辛い会社となるかも知れないが、これほど人生が保証された生活環境はないだろう。


トヨタの企業理念

1. 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす。
2. 各国、各地域の文化、慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する。
3. クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む。
4. 様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する。
5. 労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる。
6. グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす。
7. 開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する。


地域にとけこんだ企業ムラ社会

 地元を歩いていてもあからさまな不満の声はめったに聞く事はできない。それは、トヨタが愛知県の三河地方という閉鎖的な土地柄の上に築き上げられた、典型的な企業ムラ社会だからだ。 

 トヨタは国内に12ある自社工場のすべてを、愛知県内に置いている。ほとんどは豊田市周辺にある。豊田市内の製造業で働く約8万8千人の8割以上が、トヨタと部品工場など自動車関連会社の社員だ。

 彼らはトヨタ記念病院で生まれ、21店舗もあるトヨタ生活協同組合で買い物をし、小中学生になると遠足がてら見学施設やレストラン、社員クラブなどを備えたトヨタ会館やトヨタ鞍ヶ池記念会館を訪れる。
 ホテルからレストラン、スポーツクラブ、ウオーターパーク、室内テニスコート、パターゴルフ場まで備えたトヨタの「フォレスタヒルズ」で遊ぶ。ここで結婚式を挙げる人も多い。やがて、老人保険施設「トヨタジョイスティ」を訪れることもあるだろう。葬祭場もあって、生まれたから死ぬまでトヨタの施設に囲まれているのだ。

 最強組織と言われるトヨタの秘訣は、社員が仕事から家族、趣味、老後まで自分の全ての人生を預ける生活共同体となり、ユートピア的社会を提供しているからではないのだろうか。



 見直される生活共同体的文化



 古くから、日本の社会には地縁の強い生活共同体がありました。 生活共同体社会とは、一人ひとりが精神的に自立した社会です。個々が自立しながらも一定の集団規律を持ってお互いを信頼し、助け合い、生かし合いながら生活していく社会です。

 生活共同体は、結束力と持続力のある力強い地域文化を形成してきました。 しかし、それは戦後の生活の急速な欧米化、核家族化、交通通信手段の発達となどと共に次第に崩壊していったのです。
しかし今、このような日本に古くからあった生活文化が見直されてきております。

 顧客満足経済へ移行した今、また企業の中においても、このような共同体的組織づくりを進めることが重要になってきております。

 顧客満足は共同体的組織によって実現する

 顧客が企業の過去の実績やネームバリューよりも顧客満足度で商品やサービスを購入するようになった現代において、経営者と社員との関係は主従の関係ではなく、心を合わせてひとつの目的へ向かう協同関係となってまいりました。

 経営者は社員に対していかに働きやすい環境を提供し、モチベーションを上げてもらうことができるかを考え、社員はいかにお客様に喜んでいただき、その結果としていかに会社の利益を上げていくことができるかという課題に取り組みます。

 顧客満足は全社員が同じ価値観をもって取り組むべきものですから、自分だけが良ければいい、というものの考え方をする経営者もしくは社員がいれば、成功しません。
 そういう意味で、これからの企業組織は社員が皆で知恵を出し合い、協力し合い、個々を生かし合うことのできる共同体になる必要があるのです。
   そして理想的な生活共同体的企業とは、役割分担が明確にされ社員個々が自立的・自発的に行動している組織=フラットな組織であるべきでしょう。