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ユートピア研究

『見つけ出すもの』ではなく『作り出すもの』、それがユートピア

53. 「共生社会」の提唱   -内閣府の共生社会政策より-

共生型社会

 

少子・高齢化が急速に進む中で、社会の活力と安定を確保するには、多様な個人が能力を発揮しつつ、自立して共に社会に参加し、支えあう、「共生社会」の形成の視点に立った青少年育成施策、少子・高齢化対策、障害者施策などの総合的な推進が重要です。 

 このため、内閣府では、「共生社会の形成促進」という観点から、目指すべき社会の姿を5つの「横断的視点」として整理するとともに、共生社会の姿を具体的にイメージし、その形成状況を把握するための指標体系を構築しました。

○共生社会実現の「道しるべ」 
・目指すべき社会の姿-5つの視点-

各人が、しっかりした自分を持ちながら、帰属意識を持ちうる社会 
各人が、異質で多様な他者を、互いに理解し、認め合い、受け入れる社会 
年齢、障害の有無、性別などの属性だけで排除や別扱いされない社会 
支え、支えられながら、すべての人が様々な形で参加・貢献する社会 
多様なつながりと、様々な接触機会が豊富にみられる社会 
・指標体系 
共生度指標それぞれの横断的視点で描かれた社会の実現状況を測る指標) 
分野別指標(青少年、高齢者、障害者といった個別政策分野に関係する指標) 

○「道しるべ」の活用方策 
・社会がどの程度共生できているか、の状態の各種指標による把握
・共生社会の担い手にとっての、活動の目標設定や重点化に際しての基礎資料
・共生社会の担い手の間での、共生社会形成についての理解の共有、一層の連携 

現代のキーワードの一つは、「安全・安心」である。平成7年の阪神・淡路大震災、平成16年新潟県中越地震等の災害は、防災体制のみならず、被災時の緊急対応、また被災者の生活支援、長期にわたる精神的ケアなど、我が国社会に大きな課題を残した。
 その中で、社会の関係性の観点から注目すべきは、被災地の方々どうしの助け合いのみならず、募金活動や救援物資の援助、さらには全国各地からボランティアが積極的に参集するなど、これまでにない力強い助け合いが見られたことであり、こうした動きは私たちの社会に希望と明るさを与えている。

 また、災害に対する対応のみならず、都市部を中心に従来の伝統的な共同体が揺らぎつつあるなか、各地域において、これまでの共同体内部での役割にとらわれず、子育て、通学児童の安全運動、高齢者介護、若者と高齢者の世代間の交流行事など、様々な生活の必要に応え、潤いを求める動きに根ざした試みが行われている。こうした動きは、その自主性、創意工夫とあいまって、地域生活になくてはならない貴重な取組みとして、ますますその活動範囲を広げつつある。
 さらには、地域に限定されず、休日をボランティア活動に充てる、あるいは、退職後に自己の得意分野を活かして様々な社会活動に活躍するなど、一度限りの人生において職業生活のみならず多様な分野で自己を実現していこうとする積極的な動きが見られる。
 加えて、最近では、いわゆるボランティア活動の枠組みでは捉えきれない、例えば同じ病気を抱えている人々の集まりや、不幸にして災害や犯罪に遭った人々のグループといった、立場や境遇を同じくする者どうしの活動が一層活性化しつつある。こうした活動においては、単なる情報の共有にとどまらず、悩みを分かち合い、理解し合うための関係性の存在自体が極めて重要となっている点で、注目に値する。  これらの動きは、社会全体を俯瞰してみたとき、極めて多様な関係性の下に人々が結びついており、また、その契機を近所どうしの好意や従来の共同体での固定的な役割を果たすことを越え、自己実現、社会の改革、心のよりどころを求めるネットワークづくりなど多様な姿を見せている。
 こうした関係を、従来の共助あるいは互助という言葉で捉えきることは困難である。個人の自発的な動機に基づいた、共に生きるための新たな関係が様々な形で芽を出し、そして花開こうとしている、と捉えるべきではないだろうか。 


(1)共生社会の提唱


 これまでに述べた社会の各方面で様々な形で芽を出しつつある力強い動きを踏まえ、これらの動きをより一層促進するため、今後の目指すべき社会の在り方として、本研究会として「共生社会」の形成を提唱したい。
 ひとことで言えば、「共に生きる新たな結び合い」の提案である。共生社会は、既に完成されたものではなく、今後、我々が共に社会を築いていく際に目指すべき、いわばプロセス概念である。これを築いていく際の具体的な視点については、第5章に述べるが、ここでは、そのキーワードを「共に生きる新たな結び合い」としている点を説明しておきたい。
 これまでも、社会あるところ常に助け合いが存在し、社会に救いと潤いを与えてきた。また、多くの優れた情熱ある篤志家によって、様々な社会問題の解決に際し、国や自治体の行政が届かない、あるいは顧みることのなかった分野において、大きな貢献がなされてきた点で、我々は先人に多くを負っている。
 しかしながら、第1章で述べた現在の様々な関係性の萌芽は、以下の点で従来型の助け合い、あるいは篤志家の活動に比し、明瞭な違いを見せている。
 一つは、個人、地域社会、ボランティア団体やNPO2、企業などを中心とした活動が、単に点的な活動ではなく、社会全体の中での各主体の位置づけを認識している点である。インターネットを活用するなどにより、地域での連携はもとより、地理的な距離を超えてのネットワークづくりや、各種のグループどうし、あるいは、各グループが、企業や自治体など他の主体と積極的に連携を模索しつつあることは、その現れである。いいかえれば、社会の一員として、他者と共に生きる存在の観点をしっかりと認識している点で、これまでの近所どうしの助け合い、企業イメージの向上策といった範囲が限定的で、かつ、一時的な助け合いとは異なっている。
 もう一つは、これからの社会を創っていく担い手としての自覚を有している点である。目下の様々な動きは、多様な人々を理解し、手を差し伸べ、他者とかかわる活動を通して、社会を変えていく一助としての意識が底流として共通しており、従来の行政の間隙を埋めるといった受動の発想ではなく、規模の大小はあっても、能動的に社会を変えていく、創っていくとの意識が明瞭である。
 こうした点から、共生社会の形成は、これまでの共助ないし、互助を促進・助長することでは捉えきれない内容を持っている。
 以下の節においては、共生社会形成の意義、そして、その具体的な姿を、更に明らかにしていきたい。 

(2)共生社会形成の意義

 第1章において、力強い助け合いが社会に活力と希望を与えていることを述べたが、同時に、現代は過酷な時代でもある。自殺者が年間3万人を超える3といった冷厳な現実や、青少年がなかなか自立できない状況は、現代社会が深刻かつ様々な病理を抱えていることのほんの一端にすぎない。
 また、障害を持つ人々が教育を受ける際の困難、女性の社会参加に際しての障壁など、まだまだ社会として解決すべき課題は山積している。
 こうした病理や諸課題については、それぞれのテーマごとに専門的かつ真摯な取組みが行われているが、個別の取組みと同時に、トータルとして、どのような社会を目指すのか、との観点から共生社会を形成することは、以下の点で重要である。
 第一に、新たな関係性の萌芽として指摘したように、現在、個人、地域社会、ボランティア団体やNPO、企業など、様々な主体が社会づくりの担い手となっているが、その活動の中心テーマも、災害時の応急対策であったり、地域の子育てであったり、あるいは地域貢献を踏まえた企業活動など様々である。
 しかしながら、これらの活動は、困難な状況にある人の状況の打開、若者の自立する過程での苦しみに耳を傾けること、お年寄りを大切にすること、地域と企業の共存など、中心テーマを異にしつつも、多様な人々を理解し、手を差し伸べ、他者とかかわることによって、社会の構成員どうしの関係をより充実させる、との底流が共通している。
 これからの社会の在り方を考えるに際しては、こうした底流を明確に意識し、こうした動きを促進させていくための、新たな「拠り処」あるいは「旗印」が求められる。  また、共生社会の形成は、国民の間で一貫して増加している「ものの豊かさ」より「こころの豊かさ」を求める動き に対する回答の一つの鍵ともなる。すなわち、こころの豊かさは与えられるものではなく、自身の他者との能動的なかかわりから得られるものであるとすれば、こころの豊かさを充足させる社会とは、自発的な他者との関係の形成を積極的に促進する社会であるといえる。
 さらには、我々の生活は、人生のライフステージごとに様々な課題に直面する一方、病気や不慮の事故など様々なリスクを常に抱えており、こうした場合の各人のニーズは極めて多岐にわたっている。
 社会として利用しうる資源は限られており、すべての分野について十分に資源を充当できないことはいうまでもない。また、個々人は他者の様々な立場や境遇を必ずしも十分に理解できるものではない。
 したがって、社会が全体としてバランスのとれた姿となるためには、個々人が自己の直面している課題のみに目を奪われることなく、様々な境遇にある同時代人として共に生きていくために、どんな姿の社会を目指すのか、そのトータル・イメージを共有し、社会の様々な担い手がこれに向けた努力を行うことが、これからの社会づくりに向けて、極めて重要である。 

(3)より自由な経済社会の促進との関係

 「はじめに」でも述べたとおり、より自由な経済社会に向け、様々な分野でその実現に向け積極的な試みが行われているが、共生社会の形成は、こうした動きとどのような関係にあるのだろうか。
 共生社会促進のため、障害者、高齢者などの社会参加促進の観点から、バリアフリーのための施設整備を行う場合には、社会として限られた資源の中から、こうした整備に一定の資源を充当する必要がある。
 また、企業が積極的に高齢者を雇用していこうとする時、少なくとも短期的にはコストの増加をもたらし、厳しい企業間競争の中、競争力の維持強化とは対立的な関係に立つことがありうる。
 他方、社会の構成員の間で多様なネットワークが築かれることは、企業の活動分野を拡げ、企業を活性化させることにつながる。
 あるいは、女性の社会進出の障壁を除去するなどにより、障害者、高齢者、女性それぞれの有する潜在的能力を活用することは、企業活動はもとより、社会全体として、いまだ顕在化していない貴重な活力を引き出す上で、大きく寄与する面もある。
 以上のように、より自由な経済社会と共生社会の形成との関係には、様々な面があり、企業の競争力の維持と共生社会の形成とは、短期的には対立的な関係に立つ面もあるが、自由な経済社会の促進全体にとって、共生社会の形成は、それを補完し、その基盤整備を促すともいえる。
 今後の社会の在り方を考えるに際しては、自由な経済社会の促進の観点と共生社会の形成の観点とを常に意識しつつ、適切な緊張関係の下に考えていくことが、真にバランスのとれた社会を形成していく上で、特に重要である。 

(4)海外における諸研究の動向


 他の先進諸国や、OECDなどの国際機関においても、個人、グループ、組合・団体、機関、地域など、社会における様々な主体の間にある関係性に焦点を当てた社会の姿を模索する動きが、1980年代の終わり頃から登場し、近年の重要な研究テーマとなるとともに、社会政策の基本として採用されるようになってきている。5  とくに、社会的弱者が排除されることのない社会を目指すということが注目されている中で、政策の基本が、所得格差など結果の不平等を是正するという考え方から、不平等を招いている原因に立ち返り、個人の雇用可能性を高めたり、他者とのつながりの中で個人が社会において活動できる基盤をつくるといった方向性が注目されるようになった。 これらは、個人の自由な活動を保障しつつ、人と人との新たな関係性を追求しようとする動きの一環であり、前節に述べた適切な緊張関係の下で良好な社会の実現を考える試みとして、昨今の先進国共通の課題となっている。 本研究会では、こうした海外における先進的な研究をも視野に置きつつ、社会的排除の視点をはじめ、更に多くの視点から社会全体のあるべき姿を検討したところである。 

共生社会促進のために


 共生社会の基礎には他者との良好な関係の構築がある。しかしながら、社会の構成員、とりわけ、次代を担う青少年の中に、自尊の感情を持てない、あるいは、親から自身の存在価値を認められたことがない、といった者が少なくない点は、共生社会を築いていく上で、直視しなければならない現実である。こうした自尊の感情がない者は、他者との良好な関係を築くことができず、いわば、社会関係構築の前提を欠くといわざるをえない。
 したがって、共生社会の在り方を考えるに際して、個々人の存在価値や多様性を認め、社会から一部の構成員を排除することがない、あるいは構成員の孤立を防止する社会であることが必要である。
 また、IT社会といわれ情報が氾濫している現代社会において、情報管理の一層の徹底を前提として、必要な情報が必要なときに得られ、社会の構成員が等しく共有することは、共生社会の形成促進にとって重要な条件の一つである。
 たとえば、近年増加している、いわゆるニート6と呼ばれる青少年の状況の改善に当たり、当事者たる青少年、その家族それぞれに必要とされる情報がある。情報の入手及び発信は、社会とのかかわりを持つための極めて重要な一手段であり、社会において関係性が切断された状態で点在する青少年どうし、あるいは悩みをかかえた家族どうしが、必要な情報にアクセスすることにより、互いに結び合い、社会的ネットワークを形成しうることは、社会の多様な担い手で構成される共生社会形成のための重要な条件である。
 さらに、誰もが自由や平等を保障され、義務や責任を果たすことは、共生社会を形成するに際しての基礎条件である。これらは社会の在り方を考える際の重要な要素ではあるが、今回の研究においては、社会における関係性に焦点を当てたため、共生社会の形成に必要な条件であることについて付言するにとどめたい。 


共生社会形成に際しての5つの横断的視点 


 第3章で、「共に生きる新たな結び合い」としての共生社会を提案したが、それでは、これからの社会をつくっていく上で、どういう視点を念頭に置くべきであろうか。  一つには、個人の自立を前提とする視点であり、自立した上で、社会に属していることに愛着を持てることである。これは、各人が属する共同体に対する愛着を所与のものとし、共同体の中で受動的に役割を果たしていく、といった従来型の意識とは異なる、新たな視点である。
 また、他者と共に同時代を生きる視点であり、これは、様々に属性を異にする他者を認め、それを受容し、支え合うことを内容とする。
 さらには、結び合う視点であり、これは、他者との関係性を自らの意思で積極的に構築していくことを内容とする。
 こうした個人の自立、異なる他者の存在の受容、社会への能動的な参加といった点を切り口として、あるべき社会の視点を整理する検討を重ねた結果、試みとして以下の5つの横断的視点を提案したい。 

(横断的視点1) 各人が、しっかりとした自分を持ちながら、帰属意識を持ちうる社会
(横断的視点2) 各人が、異質で多様な他者を、互いに理解し、認め合い、受け入れる社会
(横断的視点3) 年齢、障害の有無、性別などの属性だけで排除や別扱いされない社会 
(横断的視点4) 支え、支えられながら、すべての人が様々な形で参加・貢献する社会 
(横断的視点5) 多様なつながりと、様々な接触機会が豊富にみられる社会 
 なお、こうした視点は、社会全体の状態を把握する場合はもとより、加えて、例えば青少年の育成、障害者のための施策など様々な政策分野を貫き、横断的にも適用される視点、という意味で、「横断的視点」との語を用いている。 

結び

 共生社会の在り方そのものは、本来、人間社会が持っているものである。しかし、社会の発展に伴い、様々な条件の下で、人間関係が希薄化し、深刻な場合には断絶がもたらされており、その結果、自殺の増加、ひきこもり、といった様々な社会病理をはじめ、生きる上での貴重な智慧の世代間での継承の断絶、あるいは社会の潤いの喪失などの状況が現れている。
 こうした事情を背景にした今回の研究は、ある意味では、これまでにない新たな概念を提示したものとはいえないかもしれない。
 しかしながら、現在の深刻な諸問題は、社会を構成する様々な担い手の関係性が本来あるべき姿で十分に開花していない現実から発しており、今回の研究は、社会の関係性に強く焦点を当てることによって、社会の在り方を改めて再検討しようとしたものである。社会関係の捉えかたにおいて、新しさが広く認識されるにとどまらず、社会の構成員一人ひとりの身近な行動に結びつけていくことが、こころの豊かさをも兼ね備えた真に豊かな社会を築く、小さくとも確実な第一歩となる。
 また、共生社会の担い手は、個人、地域社会、ボランティア団体やNPO、企業、自治体、政府など多様であり、共生社会の形成に際しては、多様な担い手が積極的に連携を取り合う、開かれた姿勢が重要であることを、重ねて強調しておきたい。
 今回の共生社会の提案、また、指標作成の試みは、一つの試論である。今回の研究報告を基に、国民的な議論の輪が広がっていくことを心から期待して結びとしたい。