1. ユートピアとは(1)
理想郷とは、見つけるものではなく造り出すもの
ユートピアは「理想郷」や「理想国」、「理想社会」とも言われています。
「ユートピア」という言葉は、もともと16世紀イギリスのヒューマニストで官僚・政治家のトマス・モアが書いた本の題名で、その物語中に登場する架空の国の名前です。
これはラテン語で「どこにもない場所・国」という意味の造語です。
モアはその国を理想の国家として描き、それに照らして同時代の国家、社会の現実を批判しました。
そこから転じて「ユートピア」という言葉は現実の社会よりも優れた、理想的な社会、ないしそのような社会の構想のことを指すようになったのです。
トマス・モアのユートピアは基本的に共産社会で、私有財産は禁止され貨幣もありません。
全ての国民に労働の義務があり、定期的に農村での労働と都市での労働を行うことになっています。
当時の領主や大地主が集約農業を営むために中小農民を犠牲に経営の規模拡大をはかった囲い込み運動(エンクロージャ)のさなかの16世紀イギリスへの批判として、当時考えられるかぎりで理想的な共産制社会を描いたものでした。
しかし、実際には着る衣装や食事や就寝の時間割まで細かく規定され、市民は安全を守る為相互に監視しあい、社会になじめないはぐれ者は奴隷にされるなど、非人間的な管理社会の色彩が強いため、現在の視点から見れば理想郷どころかディストピア(逆理想郷)とさえ言える内容だという見方もでています。
しかし、現在この「ユートピア」という言葉は、主義、思想、宗教、信仰とは関係なく、だれもが幸せに暮らすことのできる理想的な社会を指し、平和と市民の衣食住が維持された理想的な社会、または国家、または世界を指す時に使われるようにもなりました。
不条理な面をふくむ現実に出会ったとき、その矛盾を解決し、もっと新しい理想的な社会像に置きかえようとする人間の想像力が新しい「ユートピア」の夢を描かせるのです。
特に社会主義圏の経済破綻が続くにつれ、中にはユートピアを理想的な資本主義国家に求めたものも出てきましたし、他方では古くから宗教団体による信仰の理念を土台とした理想郷造りも多くあり、外部から一種のユートピアと位置つけられているものも多くあります。
さらに多くの創作家が文学、美術、映画、アニメなどの表現の中に模索してみたり、描いたりしてきました。宮崎駿アニメの「風の谷のナウシカ」や「ラピュタ」にも一種のユートピアのような社会や街がでてきます。
そういうことから彼の作品を現代のユートピア文学と位置づける人もいます。