4. ユートピアとは(4)
ユートピア文学
ユートピア思想の文学といえるものは古くから存在し、歴史とその時代の文学に影響してきました。
- 古代ギリシャの「ギルガメッシュの牧歌的理想郷」
- 西洋人がたちが想像した「東洋の桃源郷」
- 老子の「少国寡民の理想」
- プラトンの「国家」
- サミュエル・バトラー「エレフォン」
- ハクスリ「素晴らしき新世界」
- イギリス革命思想の源流となりピューリタリズムによるアメリカ開拓に影響した「千年王国論」
- ベイコンの「ニュー・アトランティス」
- 三島由紀夫の小説にでてくる「まほろばのやまとの国」
など。
「桃源郷」は、中国東晋宗の詩人陶淵明(365-427)が役人生活の束縛を嫌って故郷に帰り酒と菊を愛し、自適の生活をおくり、趣くまま「桃花源記」を著した作品で、桃の花の咲き乱れる俗世間を離れた平和な世界理想郷が描かれ、仙境、ユートピアと訳され、日本人によく好まれました。
この本の内容は、東晋の太元年中、武陵の漁師が河を遡って桃の花の咲き乱れる林に迷い込み、さ迷ううちに、林のつきる水源の奥の洞窟を抜け出ると、秦の戦乱をさけてこの地に隠れ住んだ人々が、数百年に渡って平和な別天地の生活を営んでいたという話です。
桃源郷の夢から哲人政治、共産主義思想、民主主義、自由主義社会とあらゆる思想の中にユートピア思想は模索されてきましたが、近年の社会主義経済の消滅、資本主義経済の破綻などを経て、理想社会への希望は遠のいたかのようになりました。はたしてユートピア思想はその力を失ってしまったのでしょうか。
実際、ユートピア思想とは、まるで人類の中に静かにひそむ生命力の強い種子のようなものではないのでしょうか。
人生の中である日ショックな体験をしたり、自分がなっとくいかない状況に出合ったりした時など、ちょっとした刺激で個人の考えの中に芽が出てきます。それが、時間を経て成長し、熟成すると、その人間の作品に現れてきます。というより、ユートピア思想が芽生えたら、それを無視することも、隠し通すこともできないのです。
それは人間の中にある生きることへの本能と、充実した生き方への要求、そして幸せな人生への願望があるからです。そして、それが作家はそれを文学で描き、音楽家はそれを音楽に現すのです。 そしてそれは社会に新しい夢と希望を与え、そして社会に元気を与える影響をもっているのです。
童話にでてくる理想郷として、『ピーターパン』に出てくる土地で子供が年を取らないといわれている「ネバーランド」。
『オズの魔法使い』に出てくる王国で、東西南北を治める魔女がいるとされる「オズの国」。
そして、宮沢賢治の作品に登場する架空の地名で、郷土岩手県にちなんでいる「イーハトヴ」があります。
現代の日本ではマンガの中に、ユートピア的環境やユートピア文学ともいえる作品が多くでています。
筆者が愛読した中には、鳥山 明の「ドクタースランプ」(あられちゃんの発明者)が住む「ペンギン村」は作者が描く一種のユートピアだろうし、また多くの人の心を動かした宮沢駿のアニメ作品には、理想的社会が人間のおろかさによって滅びてしまう話がでてきます。
しかし、一方ではファンタジーな物語の中に、行って住んでみたくなるような町がよくでてきたりして、それはどこかにあったような懐かしさが一杯の町です。
その中にはもう今の時代には残っているんだろうかと寂しさを感じさせるものがありますが、そこには作者のユートピアへの追及心が感じられます。そして我々に死んでほしくないユートピア社会の夢を見せてくれるのです。