ユートピア研究

『見つけ出すもの』ではなく『作り出すもの』、それがユートピア

26. デンマークのコハウジング ~共同体(コミュニティ)の実験~

 

 1970年台初め、デンマークで社会的開拓者のグループは、コハウジングとして知られている共同体(コミュニティ)の実験を始めた。コハウジングは現代的な村であり、現在もいくつかの国でしっかりとした基盤がある。住人達が設計し、コミュニティの強い結束を作ることを意図したこの村は10~40の家屋から構成されている。それぞれの家屋は自分が所有する一軒家かアパートである。プライバシーについては価値が認められて尊重されているが、またコミュニティの設計と文化についても、近所間のつき合いと共有を奨励している。大抵は、会議、レクリエーション、定例食事会のための「コモンハウス」が共有されるが、作業場、庭などの空間が共有されることもある。コミュニティは自営し、それによってつき合いを深め、コミュニティ内の決定事項は合意に基づいて作られる。つまり、コハウジングは、多くの人々が望む社会的結束を供給しているが、各家庭が関わりの度合いを自由に決められるようである。


 コハウジングは人々の心を捉えている。デンマークでは、200以上もの村が運営されていて、さらに新築の家の10%はコハウジングである。コハウジングはカーシェアリング以上にたやすく北アメリカに広がってきている。約55のコハウジングのコミュニティが現在アメリカとカナダで成功している。それらはすべて1980年代終わりから建設されたものであり、さらに150以上もの村が計画段階である。住人の数はまだ少なく、アメリカとカナダの人口を合わせた3億人中の3千人である。しかし、開拓中のコミュニティの関心や動向から察すると、今後拡大することを示している。

 コハウジングのコミュニティを歩いて通れば、従来の郊外の家屋とは大きく違ったものに出会うことになる。家は、密集して建てられており、隣家と壁を共有しているところが多く、中庭や歩道の周囲に群がっている。自動車はコミュニティの財産の周囲に限られているのが普通であり、コミュニティの空間を占領することは許されない。住居は小さいが、なぜか住みやすそうに見える。最も印象に残るのは、近所同士がよく知り合っているということだろう。コロラド州のグレイロック・コモンズと呼ばれる村は、相乗り自動車が子ども達をサマースクールに送迎している。コミュニティの庭はボランティアがよく手入れしている。コモンハウスのテーブルは次回開かれるコミュニティの夕食会のために準備されている。従来の郊外居住者は、これらのコミュニティの特徴と共に、また馴染みのある要素も発見するだろう。例えば、ほとんどのコハウジングでは、家は個人の所有物であり、普通の町の家と間違えやすいという要素がある。

 住人も十分に親しみやすいように見える。1970年代にコミューンを形成した異文化グループのようではなく、住人は、もっと社会的満足ができるように、環境にやさしいように望んでいるが、世間の文化とはあまり鋭い亀裂を示さない。アメリカのコハウジングに住むほとんどの人は専門家であり、半数が大学卒業者であり、家庭を持っているのが普通である。彼らはプライバシーを尊重するが、従来の郊外居住者より社交性に富み、環境に配慮し、四方の壁を越えた世界に携わることに興味を持っているように見える。チャールズ・デュレットは妻のカティ・マクカマントと共に、1988年アメリカでコハウジングの動きが進出するのを助けたが、コハウジングは柔軟な選択肢の一つであると記している。「コハウジングでは、人はプライバシーとコミュニティの間で選択できると感じる。従来の住宅では、プライバシーとプライバシーの間で選択しなければならないのが普通である。だから私はコハウジングがきっと成功すると思った。アメリカ人は選択するのが好きだから。」

 コハウジングはアメリカではまだ幼いが、環境的利点やコミュニティの建物の利点は、オーストラリア人の研究者グラハム・メルツァーがすでに記述している。1996年、メルツァーはアメリカの18のコミュニティを訪れ、主に、カリフォルニア州コロラド州マサチューセッツ州ワシントン州であるが、コハウジングがどのように彼らの生活を変えたのかを調査した。その結果、住人の多くは、自分達が生活の質を全体的により向上させるために喜んで重要な駆け引きを行ったことが明かになった。

 おそらく、コハウジングの住人が払った最大の犠牲は、空間を明け渡したことである。研究によると、あるコミュニティの一軒当たりの平均的な居住空間は、平均的な共同空間の共有を含めて、約1400平方フィートであった。これは1996年にアメリカで新築された平均的な家の2/3の大きさである。しかし、空間の利口な共有によって小さい住宅での暮らしが助けられる。共有されたメカニカルサービスのための地下室、隣の住居との共同の入り口は、住みやすさが犠牲にされることはほとんどなくても住居の体積を減らせる。密集した建物は、庭の空間が共有できる。庭はプライバシーの大きな損失を払わなくても容易に共有できる空間である。メルツァーの研究では、これらの特徴の結果、平均的なコハウジングのコミュニティは、アメリカでの従来の開発に比べて、一軒当たり半分の土地しか使っていない。

 住人はまた、スムーズな運営を保証するために、コミュニティの自営に自由時間を費やす。平均的に会員は、一つの委員会で奉仕している。運営委員会、景観委員会、合同食事会コーディネートグループがあり、毎月または二週間に一度の頻度でコミュニティ活動を運営する。

 けれどもこれらの時間の投資に対する恩恵には価値がある。ほんの数分が大きな違いを生み出す場合もある。コロラド・グレイロック・コモンの住人は、店に出かける予定がある場合、玄関の側にカラーの旗を立て、近所の人の買い物リストを喜んで受けるという印にした。水の漏れている蛇口の修理や新しいソフトウェアのインストールなどの簡単な支援は、コミュニティ内では頻繁に行われている。かつては拡大した家庭で供給されたお世話はコミュニティで与えられていることもどきどき見受けられる。例えばマサチューセッツ州アムハーストのパイオニア・バレーのコミュニティにいる女性は出産後二ヶ月間も料理を作らなかったと報告されている。

 コハウジングの中央施設には、食事の共有などの恩恵がいくつかある。メルツァーの研究では、ほとんどのコミュニティは、週二回以上の合同食事会があり、平均して58%の住人が普通またはいつも参加している。もちろん食事は、近所の人との社交のために定期的な機会となる。また、時間の節約になることは重要である。慢性的な時間不足に対するケロッグ社の回答に比較して、(個人用の朝食パック)、コハウジングの住人は食事の準備や後片づけを共有する努力に変えている。その結果、毎月何時間もの自由時間が得られる。コロラド州ノマド・コハウジング・コミュニティは、週二回の合同食事会があるが、住人は5~6週間に一度料理と後片づけを手伝えば済む。その見返りに、彼らは同時に準備された幾種類もの料理を見せて楽しめる。ゼブ・パイスのコミュニティの会員によれば、料理や後片づけの当番のときは、2.5~3時間の仕事になる。もし家庭で同等な食事を用意し皿洗いをするために、毎日一時間を必要とするならば、ノマドで要求される以上の6週間で約9時間以上の仕事をしなければならない。コミュニティが大きければ参加する住人にとって時間の節約は大きくなる。

コハウジングにおける他の社会的利点として、安全で簡単に整えられた託児が挙げられる。必要性が起こったときでさえ、お互いを知り、信用のある隣人が近くにいることから託児を促すことになる。共同の場所がかなり安全で近所の人の目が届く範囲にいることが分かっているために、両親は安心して、子どもを家の外で遊ばせることができる。これらのコミュニティの結束は、今日、多くの親が直面していて最も挑むべき問題につき進むことを助ける。

住人は、子どもが、若者から老人までの遊び友達をたくさん持っているという容易な社交性を喜んでいるようである。小家族の時代では、コハウジング・コミュニティの利点は20人の子どもを持ち、子どもに兄弟姉妹に近い関係を与えることができることである。コミュニティでなければ決してこのような関係を持つことはできないであろう。子ども達は遊び時間を味わっていると伝えられている。テレビを見ることよりも遊びが好きなこともよくある。メルツァーの研究では、「コハウジングに引っ越ししたとき、家庭でテレビを見る習慣はなくなる」と報告している。子ども達もまた、大人達のように持ち物を共有する。あるコミュニティでは、自転車が共有場所に置かれ、どの子どももそこに置かれている好きな自転車に自由に乗れる。

メルツァーの研究ではコハウジングは社会的強さを越えて、さらに環境を配慮した生活様式を取り入れていると提案している。調査では、会員はコハウジングに引っ越してきてからは少しだが「緑の人」になることが分かった。引っ越し前よりも、もっとリサイクルするようになり、エネルギーを節約し、水の無駄使いをしなくなった。最も驚くべきかつ勇気づけられる発見は、会員は自動車の運転が減ったことである。住人の多くは中高密度の地域から、自動車の使用が増加すると予測されるであろう低密度の地域に引っ越してきた。しかし、会員は、新しいコミュニティに引っ越してきた後、自動車の運転が減ったと報告した。そして、調査では、自家用車の数が4%も減少していることが分かった。

 これらの利益を信用できるか、またはコハウジングが確信できないかのどちらかである。会員の多くは引っ越し前は従来の家に住んではいなかった。従ってメルツァーのデータからはこれらの2つの家を明確に比較することはできない。一方、もしコハウジングがその利益の原因だとしたら、これらの利益は研究結果よりも実際の方が大きいかもしれない。住人の多くは、コハウジングに来る以前から緑の実践を行っている環境主義者を宣言していた。緑の生活を養うコハウジングの設計と活動力を拡張して、もし住人の多くが緑の実践が標準でない従来の郊外から引っ越してきたとすれば、環境的節約はさらに大きいだろう。

 メルツァーが研究したコミュニティ内では、共有の実践は建物や土地を越えてよく拡がる。コミュニティ・ワークショップやほかの設備を構築するおかげで、18のコミュニティの住人は、過去に家庭で使用していた数と比べ、冷凍庫、洗濯機、乾燥機の数を25%削減し、芝刈り機は75%削減することを達成した。例えばカリフォルニア州エメリービルにあるドイル・ストリートのコミュニティ・ワークショップでは、電気ベルトサンダー、ピクニック用クーラー、カヤックが収納されていて、これらはすべて住人が使用できる。ニューメキシコ州のコモンズ・オブ・アラメダは異なる手法を取っており、特定の家庭から借りられるかもしれない用品リストを投函して、家庭用品を非公式に交換することを進めている。住人の住所の多くは、群がった家はコンポストのような環境的な実践による協力を促すことを見出している。

 もちろんコハウジング・コミュニティは、ユートピアではない。コミュニティを構成する密接な相互関係は対立も生み出す。例えば安全で容易な託児所の機会は、コハウジングの大きな恩恵であることに加えて、子どもが他の大人の影響を受ける社交性について心配するような大きな負担をも引き起こす。同時に、アメリカの開拓コミュニティの多くは、人種的、経済的多様性が足りないことを嘆いている。これは一部が建築計画、許可、建設の立ち上げ費用として、会員が引っ越すかなり前から出費が要求されるからである。ワシントン州のあるコミュニティでは一軒当たり2万8千ドルと見積もられた。低所得者で家を探している人はそんな現金を持っていない。住宅援助制度は一般的に家賃支払いのためであり、家の設計や建築のためではない。このような問題はコハウジング特有の問題ではないけれども、開発者達がコハウジング建設で先導するときに(先見ある住人は先頭に立って多くの努力をしてきた)、金銭やコーディネートの問題はもっと簡単になるべきである。